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全身疾患と口腔内の状態は関係あるって知っている?(1)
みなさんがよく耳にするのは、「歯周病と全身疾患は関係している」ということではないでしょうか。今回は全身疾患と口腔内の状態は関係あるのか詳しくお話しします。
傷病別の医療機関にかかっている患者数の年次推移
出典:厚生労働省
5大疾病って知っていますか?
5大疾病とは、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病・精神疾患のことを言います。
これは、厚生労働省が病院の設備や患者の予防など具体的な対策に重点的に取り組むべきとして指定した疾患のことを言います。以前は4大疾患でしたが、認知症やうつ病の患者が増えてきたことで2011年7月に精神疾患が加わり5大疾病となりました。
5大疾病と口腔には関りがある?
5大疾病をみてみると体の病気という印象が強いのではないでしょうか。しかし、これらの病気は口腔内の様々な症状とかかわりが深いのです。
口腔がん以外にも関りがある
がんと口腔の関係といわれると歯肉がんや舌がんなどの口腔がんを想像する人が多いのではないでしょうか。実は口腔がん以外にもがんと口腔にはかかわりがあります。
がんにより化学療法を行う場合、口腔内の粘膜や歯茎などはとても影響を受けやすい部分となります。化学療法によって口腔粘膜の細胞が破壊されることで健康な人のような防御作用がなくなり小さな傷から感染したり、口内炎などの炎症になりやすくなります。
影響を受けるのは口腔粘膜だけではない
化学療法により口腔粘膜がダメージを受けるだけでなく、唾液の量が減ることもあります。
唾液の量が減ることで虫歯になりやすくなり、自浄作用の低下、嚥下作用の低下につながります。また、口臭が出てくることもあります。
適切な口腔ケアが重要
上記のような副作用があるため、きちんとしたブラッシングで汚れを落とすことや、唾液が出るように唾液マッサージをすることが必要となります。
また、お口の中の細菌数を減少させることで二次感染の防止にもなります。
脳卒中と口腔内の関係
脳卒中には脳の血管がつまる脳梗塞と脳の血管から出血する脳出血があります。これらの脳の障害により運動障害や感覚障害、口腔機能の障害や麻痺がおこります。口腔機能障害の主なものは、摂食嚥下障害や、味覚障害、開口障害などがあります。
早い段階でのリハビリや道具の工夫
歯科の分野でできることは、口腔内のリハビリや口腔ケアです。
食べ物を飲み込むときにうまく飲み込めない嚥下障害などはうまく嚥下できるようにリハビリしたり、腕などマヒして筋力の低下がみられる方には、歯ブラシの柄の部分を普通の歯ブラシより太い歯ブラシにしたりして工夫します。
自力で歯磨きが困難な場合
麻痺の影響で自分自身で口腔ケアができない場合は、ご家族の方や介護士の方による口腔ケアが重要となります。ご家族の方で口腔ケアに自信がない方は、歯科医院で質問してみるのも良いかと思います。
次回は心筋梗塞・糖尿病・精神疾患と口腔内の関係についてお話しします。
歯周病とからだの病気
全身のさまざまなところに影響を及ぼす
歯周病は歯を失う大きな原因。歯は、食べ物がはじめて出会う「消化器」であるだけに、歯周病で歯を失うと、からだ全体に大きな影響が及びます。
さらに、歯周病が全身のさまざまな病気に関わっていることがわかってきています。
歯周病
歯垢(プラーク)の中の歯周病菌が、歯ぐき(歯肉)に炎症をおこしたり、歯根膜や歯槽骨を溶かしてしまう病気。
歯垢は歯の表面につく白いネバネバした物質で、この中に細菌がすみついている。手抜き歯みがきや不規則な食生活などが歯垢の増える原因に。
病名の文字が赤いものは歯周病と生活習慣が関係します。
青は歯周病と関係がある要注意の病気。
脳…脳梗塞・認知症
歯周病菌などの細菌感染で血管の内部で炎症が起こると、菌血症になったり、動脈硬化が促進されます。
動脈硬化は脳梗塞を引き起こすリスク因子です。
また、動脈硬化により血流が悪くなり、歯周病が進むと歯の周りの歯ぐきや骨が吸収されます。その結果、噛む力が衰えて脳への刺激が少なくなり、認知症のリスクも高まります。
心臓…狭心症・心筋梗塞
脳と同様に、歯周病菌などの細菌感染によって動脈硬化が促進されると血管が細くなり、狭心症、心筋梗塞を引き起こすリスクが上がります。
肺…肺炎
お口の中の細菌が食べ物や唾液と一緒に誤って気管に入り、その結果、肺に流れ込むことでおこる肺炎を“誤嚥性肺炎”といいます。
歯周病になるとお口の中の細菌が非常に多くなるため、肺炎になりやすくなります。
また、カンジダ菌も多く存在するようになるために、口腔内に入れ歯があるとカンジダ菌が付着し、歯周病菌が増殖し誤嚥性肺炎のリスクもさらに上がるため、歯周病菌の除菌が必要になります。
飲み込む力が衰えた高齢者・寝たきりの人も同様です。
すい臓…糖尿病
歯周病と糖尿病には相互関係があり、お互いを悪化させる要因となることが最近の研究によって注目されてきました。
歯周病によって発生した炎症性物質プロスタグランチンが、毛細血管に侵入し全身にめぐり、血糖をコントロールするインスリンの働きを妨げることで糖尿病を悪化させます。
糖尿病により高血糖状態になると、免疫機能が低下し感染症にかかりやすくなります。また、傷などの治癒も健常者に比べて、時間がかかります。
したがって、細菌感染症である歯周病にかかるリスクが高まるだけでなく、歯ぐきの血管が痛むことで歯周病を進行させてしまいます。
おなか…肥満・メタボリックシンドローム
糖尿病と同様、歯周病と肥満についてもお互いを悪化させることがわかってきました。
食事の際に一口30回以上かむことは、肥満予防にもなり、厚生労働省でも取り上げられています。
子宮…早産・低体重児出産
歯周病菌によって炎症物質であるプロスタグランチンが増加すると血管内をめぐり、胎盤に付着します。子宮収縮作用のある物質が分泌されその結果、陣痛が早くなり、早産や低体重児出産を引き起こすことが最近の研究でわかってきました。
アメリカの研究結果では歯周病の人はそうでない人と比べて早産・低体重児出産のリスクは7.5倍にもなると発表されました。これは喫煙者の早産、低体重児出産のリスク7.5倍と同様のリスクになります。
骨…骨粗しょう症
歯周病は歯ぐきや、歯を支える骨に炎症が起こり、歯茎、骨が吸収される感染症の病気です。
骨粗しょう症で骨の密度が減ると骨折しやすくなりますが、歯を支える骨でも同様のことが起こり、骨が急激に吸収され、痩せることで歯を失ってしまうリスクも大きくなります。
歯周病の原因とは
歯周病の原因
歯周病の発症と進行における細菌因子・宿主因子・環境因子
細菌因子・・・歯周ポケットに存在するプラークという、細菌の固まりのなかには多くの細菌が住んでいます。歯周病菌もその中に存在し、炎症を引き起こします。
また、細菌は生体の防御機構に対抗する為に、バイオフィルムという薄い膜を形成します。
様々な細菌が協力しあい、バイオフィルムの内部でスクラムを組んでいます。リンパ球や白血球が、バイオフィルム内の歯周病菌をやっつけたくても抵抗され、完全に排除することができません。
そのため、お口の中にバイオフィルムが多いと、歯周病菌がさらに増えて、病状が進行していきます。
全身疾患の有無や、生体の防御機構が弱い、遺伝因子などの関連性
環境因子・・・喫煙、ストレス、食生活などの関連性
これら3つの要因がお互いに影響しあって、発症、進行すると考えられます。
ペリオドンタルメディシン(歯周医学)
歯周炎と全身疾患との因果関係、関連性を解明する学問
「臨床歯周病学」医歯薬出版より引用
歯周病をなおそう 編著 鴨井久一 砂書房より引用